匂い

パリ。
どれだけ多くの若者が成功をもとめきているのだろう。

パリ。
それは一つの憧れだった。
もう、9ヶ月が過ぎようとしている。

今では、ここは特別な場所ではなくなった。

パリに行ったら、きっと何かがそこに待ち受けていると思っていたのは、ちょうど、一年半ぐらい前だろうか。
あの頃の暮らしは先の見えない状態が続いていた時だ。
そう、僕はイタリアにいた。
あの時に聴いていたCDを聴くと、あの時の思い出がよみがえってくる。

イタリアの暮らしはけして楽ではなかった。
外人扱いは非常に悪かったし、珍しいのだろう、よく人にジロジロ見られた。
見られているのが嫌で、町中ではほとんど目を会わせなかった。
一種のノイローゼみたいなものだ。

その点パリは腐る程日本人がいる。だから、そういうのはない。
ただ、パリには、ほとんど匂いが感じられなかった。

しかし最近、歩いていると、なんともいえない懐かしい匂いがした。
そう、春の匂いだ。イタリアの春の匂い。
イタリアに行ったばかりの頃を思い出す。

最初の5ヶ月はヴェネチアから電車で1時間ぐらいの町にいた。
こじんまりした町だった。
その時の新鮮な春の匂い。
湿気はほとんど感じられない。からっとした天気。

ある夜、家の庭でホタルを見た。
とても少なかったけど綺麗だった。
そして空を見上げると、星でいっぱいだった。
ひとつひとつの出来事がすべて新鮮で、深く頭の奥に残っている。

その町では年に一度、夏の音楽祭が行われ、とてもにぎわう。
クラシックのマスタークラスが行われ、若い音楽家が集まる。
日本から来る人もいる。

その町に、日本人は僕と友だちの2人だけだった。
その町では、日本人と知合う機会がほとんどなかった。
だから、日本人が恋しくて、よくヴェネチアに行ったものだ。

イタリアの暮らしはけっして楽ではなかった。
でも、その中で経験し、悩み、考えたことは、とても僕の人生の中で大きい。

最近友人とその頃の話をよくする時がある。
イタリアの春の匂い。
今年の夏はその町へ行く。
イタリアで知り合った人たちは、みんないい人だった。
その人たちに会う時には、成長したした自分を見せたい。

匂い。

あなたの思い出の匂いはなんですか?

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